優しい、笑顔、気配り。これらを併せ持っている人は福祉の仕事に向いているということをよく耳にします。決してこのことを否定する訳ではありません。これらの要素を持ちあわせていることは非常に素晴らしいことですし、このことは福祉の仕事にもきっと役に立つでしょう。
ですが、これだけで福祉の仕事に向いている、向いていないを決めるのはあまりにも浅はかではないでしょうか。福祉とは1人だけでできる仕事ではありません。周りのスタッフなどの力も必要な仕事です。ですから、一緒に働く人と対話ができるという能力も絶対に必要です。
そもそも福祉の向き不向きにおいて、向いているというのはどういうことでしょう。向いていない人よりも、良い結果を出すことができる、あるいは向いていない人よりも仕事を行う上で優れた素質をもっている。おそらくこのようなニュアンスでしょう。曖昧な表現になってしまいますが明確な規定はないのです。
ですから、福祉の仕事を行う上で、良い結果を出すことができる優れた素質がある人を向いている人としておきましょう。そして、福祉の専門性を追求すると、どうしても個人の要素ばかりに目がいってしまいます。ですが、実務の中で一日8時間でできる福祉活動、一人の利用者さんの生活を支援することは個人だけでは到底不可能です。そこには、たくさんのスタッフや他職種、他機関、家族、地域の人と沢山の方の協力と連携があって初めて成立するものなのです。
ですから、福祉の仕事を続けるためには、職場の人間関係が非常に大きなウエイトを占めています。福祉という仕事で良い結果を出すことも連携することも続けることも、どれをとっても一緒に働く人と対話ができるということがとても重要なことなのです。
私たちは日々の生活の中で、様々な思考や言動を重ねています。その思考や言動を方向付けている価値観というものは、人間が生まれてから現在そして未来にかけて培っていくものです。価値観は、育ってきた環境が違うことから出会った人などによって十人十色に変化し形成されていきます。そして、福祉には正解がないとよく言われます。それは対象となる利用者さんたちも、それぞれの価値観によって日々生活しているからなのです。
しかし、福祉においては固有の価値観で手助けするわけにはいきませんので、理念や倫理、教育や計画書などによって福祉の方向性をそろえています。ですが現場では、例えば足が痛いと言っている利用者さんには頑張って歩かせるという方針だが、ひどく痛がっているので車椅子を使う、ということもあります。このように、手順書などで明確な線引きができれば良いですが、全てを線引きできるほど統一はできていません。ですから、一緒に働く人との対話が必要なのです。